惚れたら最後。
玄関から表に出るとクラクションが鳴った。



「絆、こっちだ!」



憂雅が正面の門に車を停め、中から手を振っている。

急いで飛び乗ると車はすぐに発進した。



「今しがた静岡の直参に連絡して追跡を頼んだところだ。
俺たちもすぐ向かおう」

「ああ、すまない」

「……星奈が急に泣き出して何事かと思ったら、まさか自ら囮になるような真似なんて。
琥珀は何考えてんだ!?」

「俺たちが思うより、ずっと事態は深刻だったのかもしれない」

「は?」

「下水道を這い回るネズミの如く、あいつらは、半グレは荒瀬の基盤を崩そうと躍起になっていた。
もしかするとそれを食い止めるために、琥珀は……」



暗い考えが頭を巡る。

俺はその言葉の先を口にしなかった。



「らしくねえな、俺たち」



ふと、憂雅が前方を見ながら呟く。



「何が?」

「『裏切りは日常茶飯事だと肝に銘じろ、人の死に動じるな』そう教えこまれたってのに、このザマだ」

「……」

「琥珀はその教えすら覆すような魅力的な人間だった。
俺は、お前にふさわしい女はあいつだけだと思ってる」



憂雅はそこで言葉を途切れさせ、そしてハリのある声で言い放った。



「絶対に助けよう」

「当たり前だ、俺は元からその一択だった」

「ああ、それでこそ絆だ」



誇らしげに笑う憂雅はハンドルを操作し坂を登る。

車は高速道路のインターチェンジを通り、速度を上げた。
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