惚れたら最後。
数年前、興味本位で自分の父親を調べたことがあった。

情報屋としての経験を積めば、顔も知らない父親を捜索することは難しいことじゃなかった。

半年ほどかけ行き着いたのは、現在日本で指名手配されている詐欺グループのリーダー格の男。

フランス国籍の男だったが、詐欺の容疑で母国で指名手配されたため、30年前に日本に流れついたとのことだった。

だけどまさか、こんな形で出くわすなんて。



「あなたは何者なの?」



突然腕をつかみ上げられ、焦って質問した。



「俺は上海マフィアの一端だ。
半グレが──俺たち海外のマフィアが動きやすくなるよう、日本のヤクザを潰せと言伝を受けて動いていた。
ある方から助言をもらって、荒瀬を潰すためにはお前を再起不能にすればいいと聞いた。
昇進の踏み台になってくれてありがとう」



半グレには海外のマフィアがバックについていたことが判明した。

遂に突き止めた黒幕の正体。

しかし、状況は絶望的だった。



「やめて、嫌っ……!」



笑う男の目の奥は笑っていない。

全力で逃げようとしているのに、縛られているせいでうまく力が入らない。

ついに注射の針が肌に触れようとしたその時。










「トんだら困る、やめとき」






心のどこかで待ち望んでいた男の声が聞こえた。
< 236 / 312 >

この作品をシェア

pagetop