惚れたら最後。
「私はかつて、西雲に鉄砲玉にされた人間でした。
ターゲットはマル暴……警察官です。
今ではありえない話ですが、数十年前は暴対法なんてものがなかったので割とある話でした。
私は自分の人生に悲観していましたので、どさくさに紛れてそこで死ぬつもりでした」

「……」

「しかし運悪く生き残ってしまい、意識が戻ったら私は別人になっていました」



正直興味なんてなかったが、赤星の語り口が上手くて視線をそっちに向けた。

ふと、赤星のこめかみにある傷跡に目がいった。

……もしかして。

私は20年前の『平成最大の抗争』を思い出した。



「文字通りの別人です。殺したはずの警察官の顔に整形されていたのです。
望月大希の命令によって」

「え……」

「それから私は佐々木という警察官に成り代わり、記憶を失ったという設定で警察の内部に侵入しました」



望月大希の異常に血の気が引いた。

それを他人事のように語る赤星の無機質さにもゾッとした。



「つまりヤクザのスパイとして15年ほど警察官に扮していたんてす。
荒瀬組のマル暴として務めていたので荒瀬組の組員とは面識があります。
どうです、ドラマみたいな話でしょう?」

「どうです、と言われましても……」

「現実味がありませんよね。信じられないと思う気持ちは当事者の私も同じです」

「でも、勝手に顔を変えられて会長さんを恨んだりしなかったんですか?」



質問すると赤星は黙ってしまった。
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