惚れたら最後。
「琥珀ちゃ〜ん、さあ行こうか!」



意気揚々と助手席のドアを開けて『覇王』がそこに待ち構えていた。



「ご安心を、こっちが会長の通常運転です」



さっきとの対応の差にギョッとして身構えていると赤星は冷静に一言。



「はぁ?なんの話や赤星ぃ。
……あらら、そんなことより琥珀ちゃん、上唇腫れてきたなあ痛そうに」

「あ、いえ……私は平気です」



望月にじっと見つめられたものだからハンカチを口元から外して返答すると、血がじわりとにじんで口内に鉄の味が広がった。



「まだ血が止まってないやん。もうちょっと押さえとき。
病院連れてってあげたいけど荒瀬の若頭がもう来てはるから行かんとなあ」

「え、絆自ら来たんですか!?なんて危険なことを……」

「なんか若頭補佐とふたりきりで来たみたいやな。
なぁに、心配せんでもこの機会に荒瀬の若頭のタマ殺ったろうなんて思ってへんよ。
そんなことしてもこっちにメリットがない」



驚きを隠せない私を見て、望月は歩きながらのんびりとした口調でそう言った。

しかし奴はヤクザ。

非人道的なことをしでかしてきた人物だということも事実だ。

望月の後をついてまわる間、最悪のケースを想定し不安に駆られていた。
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