惚れたら最後。
「琥珀、怪我したのか!?おい、話と違うじゃねえか」



口元の出血を見て目の色を変えた絆は望月に食ってかかった。

琥珀はこんなささいな傷で絆が怒り出したことに驚いて、思わず彼の腕を掴んだ。



「絆、落ち着いて。この程度で済んだんだから、むしろ運がいいくらいだよ」

「琥珀ちゃんの言う通り、とりあえず落ち着いて自己紹介しようや。
俺は西雲会の統帥、望月大希。
で、あんたが荒瀬組の若頭の荒瀬絆やな」



絆の気迫をもろともせず、にっこりと胡散臭さ満載の笑みで自己紹介する望月。

その瞳の奥に潜む冷徹さに気がついた絆はそっと身を引き大人くしく向き合った。



「……ああ」

「すぐ分かったわ、壱華そっくりやーん!」



しかし突然馬鹿みたいに明るく振る舞われ、絆はぽかんと口を開けた。

離れたところで見守っている憂雅でさえも同じ顔だった。



「うわ、その虚をつかれた顔壱華に瓜二つ。
なんや、可愛げあるなあ絆ちゃん」

「……」



虎が獲物を狙うような目つきで見つめられて絆は眉毛をヒクヒク動かしている。

まさか西日本最大級の暴力団のトップがこんな掴みどころのない性格だなんて思わないよね。

その気持ちは私も同じだった。
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