惚れたら最後。
しばらくその体勢でいた絆はゆっくり顔を上げると、私の瞳を覗き込んだ。



「大丈夫か?痛みはないか?」

「唇が痛いし喋りにくい。でも耐えられるから大丈夫。
てか、ここ東京?わたし車に乗ってからの記憶が全然無いんだけど」

「ああ、車に乗った途端、相当の心労があったのか眠りこけてな。
全然起きなかったからそのまま東京まで飛ばして行きつけの病院に連れてきた。
で、切れた唇を3貼り縫って念の為入院」

「え、縫ったの?全然覚えてない……」

「は?覚えてねえの?琥珀普通に医者と会話できてたぞ」

「へえ……いやまったく。てか、鏡ある?」



自分がどのように処置を受けたかより、自分の顔の傷の具合が気になった。

「鏡はねえけど」と言って絆は自分のスマホを差し出し、カメラ機能を起動した。



「うわ……ひっどい顔」



案の定、自分の顔を見てショックを受けた。

唇は普段の倍以上にパンパンに腫れて縫った時の黒い糸が見えているし、前歯が抜けてなんて酷いツラだ。

顔を全体的に浮腫んでいて、こんな顔で彼氏の前にいることが恥ずかしくなってきた。



「あの、マスク欲しいんだけど」

「マスク?傷に当たるからしない方がいいらしい」

「えぇ……絆の前でこんなブサイクな姿イヤなんだけど」

「怪我してんだから仕方ないだろ。
大丈夫、嫌いになったりしねえよ」



絆は「生きてるだけで丸儲けだ」と笑ってふてくされる私の頭を撫でた。
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