惚れたら最後。
「まあ、その通りだね」と言って絆から視線を外した。





「琥珀、死ぬ気だったのか?」





しかし、間髪入れず絆に尋ねられ視線を戻した。



「敵を騙すならまずは味方からって言うでしょ?それに、私が囮になるなんて言ったらきっと反対されるだろうから黙ってたの」

「それじゃ答えになってない」

「……言い方を変える。絆はまだ若いから最悪私を失っても立ち直れると思った」

「……」



包み隠さず告白したことによって絆は絶句してしまった。

黒曜石のような光に満ちた彼の瞳は、だんだんと深い闇に染まっていく。



「………なんてこと言うんだ」



ゾッとするほど抑揚のない低い声だった。

あまりの迫力に息を呑み言葉を失った。



「逆の立場で考えてみろよ。お前は耐えられるのか?」

「……」

「俺は耐えられない。琥珀のいない世界なんて生きる意味が無い。
自ら死に急ぐような真似は二度とするな。たとえそれが俺のためであっても許さない」

「……ごめん、なさい」



感情に任せるように精神を追い詰める絆の怒り。

ふと、自分が恐怖に怯えていることに気がついた。

同時にこの男はこうやって簡単に人を支配できるのに、どれだけ優しくしてくれていたのか痛感した。

自分にだけ見せる優しさにつけ込んで怒らせてしまったことを後悔した。
< 254 / 312 >

この作品をシェア

pagetop