惚れたら最後。
「ごめん、言いすぎた」



口調は優しいのに抱きしめる力はとても強い。

痛いのに心地よくて、心地いいはずなのに悲しくて。

私は絆の背中に腕を回せずにいた。



「絆は、悪くない……」

「琥珀だって悪くねえよ。全てはあの半グレの仕業だ。
全て終わったことなのに責め立ててごめん」

「でも、勝手なことしたから、怒ったんでしょ?
ねえ、嫌いに、ならないで」

「なるわけねえだろ。俺も大人げなかった、お前のことになると余裕がないんだ」



ただひたすら抱きしめてくれる絆に、私は嗚咽まじりに全て吐き出した。

半グレをおびき出すため、西雲会に誓約の更新を条件に協力を要請したこと。

半グレにわざと情報を流出させて自分を誘拐するように仕向けたこと。

───そして半グレの主犯格に自分の父親がいたこと。



涙ながらに語る震える背中を、絆は優しく撫でながら聞いていた。

話が終わると言葉もなく抱きしめあった。

互いが生きていることを確認するように強く。



その間ずっと、私たちは互いを気遣うことに精一杯で病室のドアがわずかに開いていることに気がつかなかった。
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