惚れたら最後。
夜が明けて早朝絆に起こされ、退院することになったと伝えられた。

絆は2つ荷物を抱えていて、渡されたボストンバックからメイク道具と服が出てきた。

今日はマスクをしていいと言われたので目元をメイクして着替えて準備をしていると、持っていた紙袋から何かを取り出して渡してきた。



「私のスマホ?……って、画面バリバリに割れてる。拾ってくれたんだね、ありがとう」



割れたスマホの様子を手に取って見ていたけど、「あっ!」と声を発して絆と顔を合わせた。



「どうした?」

「そういえば絆にもらった腕時計、誘拐された時に無理やり外されて車外に投げ捨てられて……高級品なのにごめん、弁償するから」

「なんで弁償?あれはあげたからいいんだよ。
それに新しいの用意した」



何食わぬ顔で手に提げていた紙袋をずいっと渡す絆。

私は中身を覗いて驚愕した。



「は!?グレード上がってるんだけど。こんなの貰えないって」



なんと、軽く数字が7桁は並ぶであろう高級時計を渡された。

いらないと手で袋を押しのけたけど、絆はぐいぐい押し付けて受け取れと目で訴える。



「琥珀って金持ちのくせに金銭感覚ちゃんとしてるよな、えらいよ。
これはお前へのご褒美。これまで勉強頑張ってきたから」

「たかが受験勉強にスケールでかすぎでしょ。見返りに何を渡せばいいの?」

「琥珀が俺の事をずっと好きでいてくれたらそれでいい」

「っ……」

「そういう顔見せてくれたらもっといい」



真っ赤になった私の顔を見てニヤリと笑う絆。

自分はきっとこうやって一生この人に翻弄されるんだ。

そう思いつつも本心は嬉しかった。
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