惚れたら最後。
しかし歩いて数歩のところで彼らは足を止める。

どうしたんだろうと行く先を見るとリビングへ続く廊下で流星が通せんぼしていた。

私に気がついて真顔でとことこ歩いてくる流星。

泣くわけでも喜ぶわけでもなく、ただマスク姿の私を見て首を傾げた。



「琥珀、顔見せて?マスクの下どうなってるの?ケガしてるの?」



かと思えば急に表情が明るくなって興味津々にマスクに手を伸ばそうとしている。

優しく制止すると絆がこっちの様子を見て笑った。



「琥珀の言った通りのリアクションだな」

「でしょ、人一倍好奇心旺盛なんだよねこの子。ちょっとやそっとじゃあへこたれないし。
……あのね、唇をケガしてる歯が抜けちゃったの」

「そうなんだ。あのね、ぬけた歯はね、牛乳につけておくといいんだよ!」

「もともと差し歯だったから意味ないんだよね」

「さしばって何?」

「偽物の歯のことだよ」

「へぇ〜、じゃあはいしゃさん行って新しい歯をつけてもらわなきゃね」

「そうだね」



またこうして姉弟と話せることに人知れず感動していた。

しかし、開け放した扉のすぐ向こうに荒瀬一家が待ち構えていたことでびっくりして感動の涙はスっと引いていった。
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