惚れたら最後。
間違いなく今の会話は聞こえていただろう。

とにかくその場に荒瀬志勇がいないことだけが幸いだった。



「ごめんね勢揃いで待ち構えちゃって」

「いいえ、ご迷惑おかけしました」



微笑みながら声をかけてくれたのは壱華さん。

変わらない優しさになぜか泣きそうになった。

すると、その隣で心配そうな顔をしていた永遠が一歩、また一歩と琥珀に近づいてくる。



「無事でよかった……もう会えないかと思った」



永遠はその距離がゼロになるとぎゅっと抱きしめて私の肩に顔をうずめた。



「永遠……ごめんね」

「もうこんな無茶なことしないでね」

「うん……」



さめざめと泣く永遠にもらい泣き。母親譲りの優しさに癒された。



「琥珀、おかえり」

「あ?何やってんだおい」



抱き合う私たちを見て刹那も抱きついてきたが、すぐ絆にひっぺがされた。

顔を上げると、襟首を掴まれた刹那はニヤニヤしている。



「どさくさに紛れて琥珀に抱きつくな」

「あは、バレた?」

「いいから離れろ」

「相変わらず嫉妬深くて肩身が狭いわ〜」



笑いながらこっちに向けてウインクする刹那。

双子の姉の永遠はこんな調子なのに、刹那は通常運転だなと安心した。
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