惚れたら最後。
離れを出て長い廊下を歩いていると、向かいから組長が近づいてくるのが見えた。

歩いているだけというのに相変わらず迫力がありすぎる。

思わず目を逸らしてしまった。



「……琥珀、大丈夫だから」



そんな私を察して絆は和ませるように笑った。

正直行きたくない気持ちでいっぱいだ。

でもいつか説明しなくてはいけないから、行かなきゃ。

私は『狼の間』の目の前に来てようやく決心が着いた。



「……座れ」



襖を開けると、荒瀬志勇はいつも通りの仏頂面で口だけ動かして命令した。

斜め後ろに座る颯馬もいつも通りの胡散臭い愛想笑いを浮かべている。

……絆と刹那みたいに、対照的すぎて逆に怖いんだよねこの兄弟。

すると組長にじっとこっちを見られているのに気がつき、仕方なく目をそっちに向けた。



「そんな怖がらなくていい。まるで俺がいじめてるみたいじゃねえか」

「え……」



組長は私見つめてはあ、とため息つく。

どんな言葉をかけられるかと身構えていたから肩の力が抜けた。



「兄貴の前じゃあ、誰でもビビると思うけどね。
琥珀ちゃんはまだドシッと構えてる方だよ」

「俺は脅してるつもりはないんだが」

「顔が怖ぇもん兄貴。そんなに眉間にシワ寄せてると親父みたいにシワになるよ?」

「あ?俺の前でジジイの話するな。
てか、お前のせいで話が脱線しただろうが」

「はいはいごめんなさいね、俺もう口挟まないからどうぞ」



彼は弟を睨むと、チラッと私を見て咳払いした。
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