惚れたら最後。
「退院したばかりなのにここに来てもらってすまない。
絆から大概のことは聞いた。俺はもうお前のことは疑ってないから心配しないで欲しい」

「……はい」

「しかし、あの望月を利用するとは大した女だ。
よく生きて帰って来れたな」



前に会った時とはずいぶん雰囲気が違う彼に戸惑った。

それともこれが素の顔なんだろうか。

そんなことより、ここに呼ばれた理由が分からなかった。



「……彼は、私の提案にうなずくしかなかったんだと思います」

「どういうことだ?」

「あの時、万が一私が死んだ場合───24時間後に警察に西雲会の情報が流出するよう設定していたので」

「……は?」

「要は脅したんです。『こちらの条件を飲まないとせっかく建て直した西雲会が潰れるぞ』と」



そう、無鉄砲に西に提案したわけじゃない。

正確な裏付けときちんとしたプロセスを踏んだ上で巨悪に挑んだのだ。

組長は私の言葉を受け、しばらくぽかんと一点を見つめていた。

しかし、次の瞬間。



「ククッ……大した女だ!」



彼は見たことない満面の笑みで笑いだした。
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