惚れたら最後。
「なんだ?」

「赤星という男を……元警察官の佐々木をご存じですか?」



組長は笑っていた口を閉じると眉間にしわを寄せた。



「忘れるわけねえさ。俺の脚と肩を打った野郎だ。
能面のような気味悪い男だった」

「……彼と会ったんです。西雲の本部で」

「ほお、生きていたか。望月が消したとばかり思っていたが。
で、そいつの何が聞きたいって?」

「どうして荒瀬はあの男を始末しなかったのか不思議に思って」



すると彼は目を丸くして、視線を斜めに向けながら口を開いた。



「……単に興味がなかったってのもあるが、少し不憫(ふびん)に思えたからだろうなあ。
あの男、元はカタギだったのにひょんなことから鉄砲玉にされた挙句、顔を変えられスパイとして警察に潜入していたらしいな」

「ご存知だったんですね」

「ああ、まるで映画みてえな話だ。
それなのに望月を恨むわけでもなく右腕と寄り添うなんて実に健気じゃねえか。
俺の行動にいちいち茶々を入れてくるようなウチの腹心とは大違いだ」

「は?変化球でディスらないでくんない?
それ絶対隣の芝生は青い、だからな」



最後の言葉に静かに聞いていた颯馬さんが反応した。

それを見てますます絆と刹那みたいだと思って、内心ちょっと笑えた。
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