惚れたら最後。
「あいつに何か感じたのか?」



組長はふと探るような目で私を見る。



「……秘密を隠し持った者はいつも同じ目をしているなと、そう思っただけです」

「そうだな、言われてみれば同じ目をしている。
何を考えているか分からない不気味な目だ」



不気味な目と言われ、生みの親の美花を思い出した。

生気のない憎しみのこもった目はいつ思い出しても気味が悪い。



「その一方で、美しくて儚げな目だ。無意識に惹かれるものがある。
俺と出会った頃の壱華もそうだった……」



だけどもう一度目を合わせた彼の目は、とても穏やかで優しいものだった

回想するように目をつぶり、腕を組む彼はやがてゆっくりと顔を上げた。



「ひとりだけでいい、心を許せる人間を作れ。
そうすれば心が満たされる。心が満たされれば余裕が生まれる。
余裕がある人間は判断を間違えない」



どこかで聞いたことのあるセリフだ───そう思った時、夢の顔が浮かんだ。
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