惚れたら最後。
「……連れてきたかったのって、ここ?」

「ああ、大学生になるんだったらちゃんとしたスーツ持ってた方がいいだろ?」



車で20分ほど走って到着したのは高級店が立ち並ぶエリアの仕立て屋。



「普通のリクルートスーツでいいって!
ブランド品身につけてたら逆に目立つよ」

「たかが私立の大学生にスーツの目利きなんてできねえよ、心配すんな」



高級店を前に尻込みする私の背中を押して店内に入ろうとするので、その場で踏ん張った。



「じゃあ流星と星奈の入学式、どうするつもりだったんだよ」

「……夢のスーツ着ようかと思ってた。あんまり着てないみたいだしもったいないから」

「そういうのはもったいがらずにちゃんと自分に合った服着ろ。ほら行くぞ」



一理あると思った隙に腰に手を回され店内に入ることに。

自動ドアを通り抜けるとにこやかな年配の女性の店員が迎えてくれた。



「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、荒瀬様」

「いつもお世話になっております。
今日は大学に入学する予定の彼女のために仕立てていただきたくて」

「畏まりました、ではこちらへ」



カタギには丁寧な口調の絆。普段のギャップと合間って緊張する。

なにせこんな高級店に来たことが無い。

だって情報屋は目立ってはいけないから。

第一、絆に出会うまではブランド品を持ち歩いたことがなかった。

絆はその日、30分くらいかけてじっくり店員と話し合った後、採寸を終えてその日はすぐに帰宅した。
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