惚れたら最後。
転校生として振舞っていたのはいいものの、当時思春期ニキビがひどく、常に自分に自信がなかった。

それがきっかけか、クラスの女子にいじめられ、体育館裏につれていかれたことがあった。

まあ、割とありがちな話だ。

けど私はボイスレコーダーを持っていた。

だから何かあれば訴えてやるつもりで連れていかれたが、その時助けてくれたのが荒瀬絆だった。



『うるせえ、何してんだお前ら』

『あ、荒瀬くん……!?』

『え、あ……いや私たちは何も!』



さっきまで威勢よく悪口を言っていた女たちは、恐ろしい形相の荒瀬絆が現れると狼狽して涙目を浮かべていた。



『は?そいつがどうなろうと俺の知ったこっちゃねえんだよ。
ただ騒がしいのが癪に触った。失せろ』



その気迫、本当に中学生か?

恵まれた美しい顔に中学生にしては高い身長。

中学生のガキを脅すなんてそのふたつで十分だった。

結局泣きながらしっぽを巻いて逃げていった女たち。

彼女たちがいなくなると、彼は私に手を差し伸べてきた。



『大丈夫か?』



琥珀はその時、あまりの驚きに声が出なかった。

睨みを利かせ女を退散させた男と同一人物かと思うほどその表情は柔らかい。

思わずその端正な顔を見つめると彼は驚いた顔をした。



『お前……綺麗な目してるな』



彼は琥珀色の美しい瞳を見て驚いていた。

好奇心を秘めた瞳に、琥珀は正体がバレてはいけないと逃げ出し、その後は潜入調査を取りやめ会うことは無かったが。

あれほど勘のいい男だ。どこかであった気がする、という理由だけで私のことを探ったというのもうなずける。
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