惚れたら最後。
馬鹿言え、「壱華」ほどの美貌と心の美しさがなければ釣り合うわけがないだろう。

肉親は幼い頃に他界し、引き取られた家族に奴隷のように扱われ、仲間だと思った人間に裏切られ、何度絶望を体験したことだろう。

それでも前を向こうとする健気な女性だ。



「彼女は荒瀬志勇に選ばれて、当たり前だ……」



ヤクザというものがどのようなものなのか、私はよく知っている。

知りすぎているから自分が情報屋・梟だとバレたら消されるかもしれない。

それなのにどうして心は矛盾して荒瀬絆に会いたいと思ってしまうのか。

ここまで感情に支配されることは無かった。

恋というものがここまで人をダメにしてしまうとは思わなかった。

結局、私はただの人間なんだ。情報屋には向いてない……。

胸が締め付けられるような想いに琥珀は唇を噛んで耐えた。
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