惚れたら最後。
「はぁ、はぁっ……」

「お前経験ねえだろ。鼻で息するんだこういう時は」

「そういうの、言わなくていい……」

「可愛いな琥珀。耳まで真っ赤にして」

「ひっ……」




耳を舐められその感覚に小さな悲鳴をあげた。

こんな感覚、こんな高揚感知らない。

初めてのことだらけで脳内はパニック状態だった。



「やだ、やめて!」



涙目で訴える私に絆は動きを止めた。

いや、違う。何してるの私。

今日はこの男に抱かれにここまで来たのに。

“こんな感情”を清算するために、最初で最後にしようと思ったのに。



「お願い、待って……」



インターネットで拾った知識が役に立たない。

顔が火照って、恥ずかしさのあまり目の前の男が直視できない。



「嘘つき」



固まってしまった私に対し、絆は耳元で囁いた。

ゾクゾクして鳥肌が立つ感覚を覚えた。



「じゃあなんで今日はお前の方からベッドに腰かけた?
俺に押し倒されても抵抗しなかった?
警戒心の強い今までのお前ならそうしたか?俺はてっきり“そういう意味”だと受け取ったんだが」

「だから……」

「言わなくていいって?」



絆はそう言うと笑いかけてきて、もう一度優しいキスをした。



「可愛い。メチャクチャにしてやりたい」



そう言って、今度はキスをしながら身体を触られた。

優しくなでて、キスをして、壊れ物に触れるように指をなぞって。

……こんな愛されてるみたいな触り方、誰だって勘違いするよね。

初めて恋をした人に抱かれてそう思った。

幸福なはずの時間の中、私はずっと泣きそうだった。
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