惚れたら最後。
俺たちはその後一言も交わすことなく店の前で待つミニバンに乗り込むと、車はすぐ動き出した。

一昔前は黒塗りの高級車が一般的だったが、近年はかえって目立ってしまうため多様な車種を使い分けているというのがヤクザの現状だ。



「よう絆、3日ぶりだな。あの子に会えたか?」



運転席に座る中年の男。

真夜中だというのに、きっちりと固めた髪に整えられた髭。

このいかつい男が、あの線の細く美少年な剛輝の父親というのだから驚きだ。



「え?あの子って誰?ついに運命の子見つけた!?」

「……すまん絆」



ミラー越しにしまったと眉を寄せた剛に対し、俺は大丈夫、とうなずいた。



「そういうダルい絡み、刹那思い出すからやめてくれ」

「また喧嘩したのか?お前ら兄弟、仲悪いよなぁ。まあ俺も兄貴の嫌いなところ山ほどあるけどさ」



半笑いでぐりん、と勢いよくこちらを向いた颯馬の目の奥は笑っていない。



「……目が怖ぇよ」

「いや、横暴すぎてマジで何回タマとってやろうと思ったことか……。
あ、このことはお前のお父ちゃんには内緒な」



ふざけているのか本気なのか、腹黒い部分を見せた颯馬さんにふと思った。

この腹黒さは間違いなく倖真に引き継がれてるよな……。

シスコンで有名な長男の倖真は人当たりがよく人に好かれるタイプだが、一方で腹黒い。

刹那と仲がいいのもうなずけると胸の内で思った。

そんなことを考えながら、ふと私物のスマホを取り出し「時間がある時に琥珀の行方を探って欲しい」と航介に連絡した。



「……」

「絆?深刻な顔してどうした」

「いや、なんでもない。眠いだけだ」



琥珀……なぜ人目を避けるようにいなくなった?

だいぶ俺に心を許したように思えたが、確かに不自然な点はあった。

もう俺と会わないつもりなんだろうか。杞憂ならいいが。

頬杖をついて窓の外の変わりゆく景色を見つめながら、本部に着くまでずっと琥珀のことを考えていた。
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