惚れたら最後。
総本家に帰ってきた牙をむく狼が描かれている独特な襖が特徴的な『狼の間』に入った。

間接照明をつけただけのその部屋は薄暗い。

中央で待つ親父───組長の荒瀬志勇は腕を組み、あぐらをかいて座っている。

その近くで正座して待っているのは、若頭補佐の憂雅と、今回の件の調査に携わった凛兄。

親父の前にあぐらをかいて座った。



「絆、お前が依頼した黒幕についての件だが、どうやら梟が答えを出したようだ。
結果はお前の読み通りだった」



年々威厳を増す父親の顔を眺めながら、その深みのある声を聞いていた。



「……江戸川興業か?」

「ああ、古狸がとうとう痺れを切らして化けて出てきやがった。
……やはりあの時裏切った流進や水尾に対して処罰が甘すぎた。
だからこんな風にあぶれ物が出てくる」



露骨に怪訝な顔をした父に対し、この表情は母さんが関係してるのだろうと思った。

父である志勇は、妻の壱華に対する愛情が人一倍強い。

普段は裏切りや背信行為があっても顔色ひとつ変えないくせに、母さんが絡むととたんに弱くなる。



「情報を流出させた江戸川は破門だ。
絆、この件はお前に預ける。
早急に決着をつけろ、どんな手を使ってもいい。
話は以上だ」

「はい」



親父はそう伝えるとすぐ立ち上がり、寝室へ姿を消した。
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