惚れたら最後。
広がる静寂に深く息を吐いた直後、後ろに座っていた颯馬さんが口を開いた。



「……剛、どう思う?」

「どうって、何がっすか?」

「ありゃ壱華をベッドに待たせてたと思うんだよね。
じゃないとこんな早く終わるわけない。
俺 てっきり朝まで兄貴交えて現状報告の会議開かれるもんだと思ってたけど」

「知らないっすよそこまでは。確かに機嫌悪そうだと思いましたけど」



俺でも緊張したのに、親父の側近の2人は陽気に喋りだして驚いた。



「……あの気迫を機嫌悪そうで済ませるなんてどんな神経してるんですかおふたりとも」



そんな2人に震える声で話しかけたのは憂雅だった。



「マジで緊張した。吐きそうだった。
絆ぁ、お前来るのおせぇよ。あの状態のオヤジと同じ部屋なんて地獄だ」

「悪い。寝てた」

「はぁ?お前、顔が良ければなんでも許されると思うなよ!」




正座を崩して詰め寄ってくる憂雅に余裕はない。

憂雅は初恋の相手が母さんだと親父に知られて以来、目の敵にされていた。



「アッハハ、剛に突進するような怖いもの知らずの憂雅はどうした?」

「俺もう24ですよ。やっていいことと悪いことの分別はつきます。物心ついてもない時ですよそれ」



颯馬さんがあっけらかんと笑うと、憂雅は勘弁してくれといった様子で苦笑いした。

そんな憂雅に凛兄が笑いかけた。



「あの時の憂雅は無敵だったもんなぁ。俺はあの時、剛さんが怖くて怖くて。
今じゃ飲みに行けるような仲になったなんて自分でも信じられない」

「凛兄……」

「凛太郎……お前ってやつは」

「剛、泣くなよ。ったく、お前もおっさんになってから涙脆くなったな」



ひと昔前を懐かしむような4人の会話は───



「そろそろ本題に戻ろうぜ……」



俺の声によって現実に引き戻された。
< 48 / 312 >

この作品をシェア

pagetop