惚れたら最後。
俺たち兄弟は生まれてからずっと総本家の中の離れを住居として暮らしている。

離れといっても5LDKの立派な家屋だ。



「ニャー」

「あら、おかえりノワール。あなたのご飯はあっちよ」



リビングに入ると、母さんがキッチンを縦横無尽に動き回って朝食の準備をしている。

すると、入ってきた反対側の扉から、グレーのスウェットを着た男が現れた。



「ふわぁ……おはよ母さん」



大あくびをしながら食器棚からグラスをとるのは荒瀬の次男坊、刹那だ。

永遠の双子の弟で今年17歳の刹那は、姉弟で同じ高校に通っている。

色素の抜けたような薄いブラウンの髪色に、全体的にバランスの整った顔立ちなのだが俺はどうもこの弟が嫌いだった。



「あ、刹那。水飲むんだったらついでにお皿出してくれない?
あと志勇のコーヒーもいれてほしい」

「えー、勘弁してよ母さん。俺昨日父さんに叩き起されて真夜中に絆を起こしてやったせいで寝不足なのに。
……っているじゃんここに元凶がぁ!」



冷蔵庫から水を取り出してグラスに注ぎ、ブーたれている刹那は、目を大きく見開いて迫ってきた。



「朝からうるせぇ。つか皿くらい出せよ」

「あ?まず起こしてくれてありがとうだろうが。お前あのまま寝てたら父さんに大目玉食らってたところだからな!」

「あーもう、朝から言い争わないで。絆もご飯食べるの?」

「うん、俺もコーヒー飲むから父さんの分も沸かしておく」

「ありがとう」



「……はあ、朝から絆と会うの疲れるぅ」



ぶつくさ言いながら皿を並べる刹那を横目に、準備をしていると、洗面所の方からジャケットを脱いだスーツ姿の男がリビングに入ってきた。
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