惚れたら最後。
昼過ぎ、起きた俺はスーツに着替えて本家の応接間に入った。

しばらく待っていると扉が開き、杖をついた白髪の老人が入ってきた。

この男はあの江戸川興業のトップだ。



「初めまして、お会いできて光栄です若頭。
江戸川興業会長の池谷(いけや)と申します。
まさか死ぬ前に本家の方に直接お会いできるとは」



震えるシミだらけの手で挨拶をする老人に引っかかった。

こんな老い先の短い爺さんが、莫大な報酬を求めて荒瀬を裏切るなどの賭けに出るのだろうかと。

ゆっくりとソファーに座った池谷は、これまたゆったりとした口調で話しかけた。



「あの、それで私をどうしてこちらへ?」

「とぼけるな、お前たちが情報を横流ししていたのは調査済みだ」

「……はい?」




……間違いない、この爺さんは白だ。

焦燥も動揺もないまっすぐな瞳を見て確信した。

そして同時に失望した。

黒幕探しをまたイチからしなければいけないと。



「情報を横流しとは、どういう意味でしょう?
私は生まれてこの方、荒瀬のために尽力して───」



困惑する老人に事情を説明しようか迷っていると、机の上に置いていたスマホが鳴り響いた。



「絆、ハメられた!江戸川は囮だ!」



それを取ると、相手は朝から江戸川興業の本拠地に向かっていた憂雅だった。
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