惚れたら最後。

絆と琥珀

これほど月日が過ぎても解決できない仕事は未だかつてなかった。

仕事が行き詰まったストレスか、仮眠をとった私は悪夢を見た。

幼い頃の夢だった。



『騙された!あの男、この私を騙しやがった!』



狭く汚いワンルームの部屋で髪を振り乱し発狂するのは、私の生みの親だ。

その顔は狂気に満ちていた。



『なんで私ばっかりこんな目に!?
これも全部あいつのせいだ……。
あいつさえ───さえいなければ私の人生は何も問題なかったのに!』



怯えながらその女を見ていると、ふと目があった。



『何よ、その目。生意気ね。産んでもらったくせに睨むんじゃないわよ!』



女は恐ろしい形相で近づいてきて、私の首を締めてきた。

苦しい、息ができない。



『なんでよ、なんで私ばっかり……!』



それはこっちのセリフだ。

ただお前の元に生まれ落ちたというだけで、どうして虐待されないといけないのか。

そもそも原因はお前にある。

お前が家族を、“あの人”を大事にしていれば、こうはならなかったんだ。

ああ、こんな女の血が私に流れているなんて、反吐が出る。

夢の中で繰り返される最低の記憶。



「……琥珀……琥珀お姉ちゃん!」



永遠に続くかと思われた悪夢に終わりを告げたのは、星奈の声だった。
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