惚れたら最後。
素早く立ち上がり、男に背中を向けそのまま立ち去ろうとした。

しかし。



「会計は俺が済ませておこう」



不思議なほど力を持った声に、ゆっくりと振り返ってしまった。



「え?」

「その代わり、また来い。待ってるから」



……話が違う、この男が自分から誘うような真似をするなんて。

噂じゃ行為に及ぶまでは、無駄話はしないって話だし。

その言動の不審さに、“ただの女”を演じていた私は情報屋の顔に一瞬変わってしまった。



「返事は?」

「っ……はい」



しかし見透かされるような瞳を向けられ、とっさに返事をした。

そして金を払ってくれたことにわざと礼を言わないまま店から出た。




……あの男、単に女たらしなの?

それとも私の行動を不審がって声をかけた?

店を出た私は動揺していた。



「けど気になるならあんな回りくどい方法………あっ!」



腕を組んで考えていた私はその瞬間、ふと思い出した。
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