惚れたら最後。
そんな俺の性格から、つけられた異名が『雅狼(がろう)』。


はじめは風雅(ふうが)で優しい少年の印象を与え近づき、利用できそうな人間なら誰でも丸め込んできたずる賢い狼。

響きはいいけど由来が散々だよなあ、俺の通り名って。

まあ、身内以外は雅狼っていう言葉の意味を知らないだろうけどさ。

ふと、いろいろ考えながら囲碁をしていると祖父は呟いた。



「お前、年々志勇に似てくるな」

「そう?父さんには性格が颯馬叔父さんに似てて腹立つって言われたけど」

「颯馬よりお前は賢いだろう。俺は知っているぞ。それがお前の本当の顔でないことも」



このくだり、またこの話か、と露骨に苦笑いをしてしまった。



「最も荒瀬の血を濃く受け継いだのはお前だ、刹那。
()抜けを演じているようだが、実は思慮深く頭脳明晰だということを隠している」

「腑抜けって失礼じゃない?」



核心を突こうとする発言を交わすも、じいちゃんは眼光鋭くこう言った。




「刹那、組を継ぐ気はないか」




うわー、出た。じいちゃんのこういう所だけはマジで嫌い。

俺は心の声を飲み込み笑顔を作った。



「勘弁してよじいちゃん。今まで何回も言ってるけど、俺は悠々自適に暮らしたいの。
殺るか殺られるかのギスギスした世界じゃなくて、ゆくゆくは日本を飛び出してどこか海外でゆったり暮らしたいわけよ」

「そうか……お前の答えはいつも同じだな。
だがしかし、その力量を試さずに生涯を終えるというのは惜しい気がしてな」

「絆は女関係がだらしないけど、家業については真面目だから大丈夫だよ。
組を継がせるなら絆の方がいい。ばあちゃんに似て勘が鋭いし。
第一、俺にはやる気がない。
そんなに心配なら絆に聡明な伴侶でも紹介してあげれば?ばあちゃんみたいなさ」

「……紘香も壱華さんも、優しすぎるからダメだ」

「へえ……てかじいちゃん、そんなことで悩んでる間に、詰んでるけど大丈夫?」

「は?」



じいちゃんは慌てて碁盤を見て「また腕を上げたな……」と感服した。

俺はしてやったりと笑った。
< 88 / 312 >

この作品をシェア

pagetop