惚れたら最後。
「……正直、つい最近まで学生だった絆に若頭が務まるのか不安でな」

「ええ、まだその話?聞き飽きたんだけど」

「せめて柔軟な考え方ができるお前がいてくれたらと……」



1局終わったことで話も終わりかと思いきや、更に話を進めてくるからさすがに嫌気がさした。



「あらあら2人とも、難しい顔をしてどうしたの?
お菓子を持ってきたからみんなでいただきましょ」


お茶と茶菓子を持ってきたばあちゃんが部屋に入ってくるとそっぽを向いたが、俺は空気を読まずあえて発言した。



「じいちゃん、絆は若頭に正式になったってのにどうして俺に『組を継ぐ気はないか』とかはちゃめちゃなこと言ってんの?
そんなことするから、絆が高校中退して若頭に襲名するハメになるんだよ。
本来ならもっと勉強してからの襲名になるはずだったのに、じいちゃんが俺を推薦しようとするから周りが焦ったんだよ。
組の情勢とか、やり方とか、まだ分からなくて当たり前じゃん」

「……そんな風には捉えていたのか?俺はそんなつもりでは───」

「てか、これ以上何かするようだったら俺たちの兄弟仲に響くからやめてくれよな。ただでさえ仲悪いのに。
じいちゃんにとっちゃただの褒め言葉でも、他人から見たら刹那を跡取りにする気なのかって思われてるんだよ。
じいちゃんの発言力は絶大なんだから」




じいちゃんはこんな言い方をする俺に驚いていた。

それから何か言いたげに眉間にシワを寄せたが、その前にばあちゃんが口を開いた。



「あとから後悔するって分かっててどうしてそんな手段を取るのかしら。ねえ、冬磨」

「……!」

「ごめんね刹那、この人の悪いくせなの。
今後は私から言って聞かせるから安心してね。
さて、お茶をどうぞ」




何かを察したのか、怖い顔そう言うと、じいちゃんは凍りついたかのように動きをとめた。




「……やっぱりどんな屈強な男も、嫁さんには逆らえないんだな」



その様子が両親と重なり、どこかほっとした心境の中でうっすらと笑った。
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