惚れたら最後。
父さんもその凛々しい目元をゆるめて笑った。

が、次の瞬間、玄関のドアががチャリと開いて「ただいま」という母の声が聞こえ、顔色を変えた。



「壱華、やっと帰ったか。よし行くぞ」

「志勇!え、なんでいるの?ていうか、どこに?」



そしてリビングに入ってきて荷物置いた母さんをを抱きしめるや否や、お姫様抱っこして玄関の方に向かった。



「ちょっと、志勇。離してよどういうこと?ご飯作らなきゃ……」



なんとなく嫌な予感がして玄関まで行くと、嬉しそうな顔の父さんに指を差された。



「刹那、褒めてやったんだから2日くらい家を頼むぞ。
いいホテルに予約取ってるんでな。永遠にも伝言頼む」

「なんだよそれ、早く言ってくれよ!
褒めた見返りがデカすぎるって」

「ごめんね刹那、冷蔵庫に昨日の肉じゃがが入ってるから適当に食べて。
あと買った食材冷蔵庫に片付けて───」



母さんのその声を最後に、ぱたんと玄関のドアが閉ざされた。

俺は唖然として、とりあえず状況を整理してから呟いた。



「まあ、母さんもまだ37歳だし、子育ても一段落ついてるわけだし、そういう時間って大事だよな」



母である荒瀬壱華は19歳で絆を産み、その2年後に俺たち双子を出産した。

若くして子育てに奮闘した母さんには幸せでいてほしい。



「さて、やりますか」



玄関に置き去りにされた食材をキッチンまで運び、仕方なく料理をすることにした。
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