惚れたら最後。
くつくつと鍋を煮立たせ冷蔵庫にある野菜でみそ汁を作った。

付け合せの漬物を冷蔵庫の中から探していると、リビングのドアが開いた。



「ただいま……あれ、刹那。お母さんは?」



部屋に入ってきたのは出先から帰ってきた双子の姉・永遠だった。



「父さんとふたりっきりでおでかけ。2日くらい家空けるらしい」

「えー、明日はお母さんに料理教えてもらう予定だったのに」

「また今度にしてもらいな。なんかいいホテル予約したらしいから引き離したらさすがに可哀想だろ」

「そっかぁ、たまにはふたりきりの時間って大事だもんね」



のほほんとした雰囲気の永遠は納得したようにあいづちを打った。

首に巻いたマフラーを外す永遠を眺めながら、つくづく似てない双子だなと思った。

永遠は穏やかで心根も優しい。それに真面目で思いやりがあって裏表がない。

俺とは正反対の性格だ。



「今日のご飯刹那が作ってくれたの?ありがとう」

「作ったのはみそ汁だけ。メインは昨日の肉じゃがだよ」

「みそ汁作れるだけでもすごいよ。私この前みそ汁あっため直そうとしたら爆発したもん」


しかしなんでも器用にそつなくこなす俺とは違い、永遠はちょっと不器用で、特に料理が壊滅的にできない人間だった。



「え、この前はレンジでゆで卵爆発させてなかった?」

「うん、生卵じゃなかったら大丈夫と思ったらゆで卵も爆発しちゃった……」

「ある意味料理の才能あるよ、永遠」



それから食事の準備を済ませて食卓を囲み、テレビをつけてバラエティ番組を観ながら夕飯を食べた。



「そういや、絆に彼女できたっぽい」



それを聞いた永遠は数秒間ぽかんとして、我に返ったように俺聞き返した。



「……え?カノジョ?あの女遊びが激しいお兄ちゃんに?」

「うん、俺も正直まだ信じてないけど、なんか本当っぽい」

「ふぅん、本当なら安心だな。私、お兄ちゃんの女たらしな所だけは嫌いだもん。
思ったより早く落ち着いてくれてよかった」








「ああ、永遠も早く落ち着いたらいいな」







その何気ない一言に、永遠は動きをとめた。

すぐに何事も無かったように食事を再開したものの、無言を貫く永遠は、食事の最後のひと口を飲み込むと立ち上がった。



「………もう無理だよ、諦めたから。ごちそうさま」



ぽつりとそういうと自分の食器を洗って自室に向かった。
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