ハツコイぽっちゃり物語
「私は千桜がどっちを選ぶかそんなことはどうでもいい。ただ千桜が幸せであればそれで充分」
ふわりと笑う彼女はとても綺麗で思わず見惚れてしまった。
ようやく長蛇の列から抜け出した俺たちは2人の元へ。
俺も米倉さんの幸せな顔がみたい。
悲しい顔より幸せな笑顔が誰だって見たいに決まってる。大切な人だから。
「俺もそう思うよ」
「え?」
止まった俺に気付いた彼女が振り向く。
「米倉さんとは少し距離を置こうと思う。俺も米倉さんには笑っていて欲しいからさ」
「でも、……分かりました。じゃあ、」
視線が俺の後ろを見た。
振り向くとそこには大きな観覧車。
今度は俺が彼女に視線を向ける。
“わかった”と頷くと彼女も同じように頷いた。
「おまたせ〜」
さっきとは打って変わって声のトーンが明るくなった彼女に笑みを浮かべる。
やっぱり苦手だったのかなと思った。
みんなでひと休憩を挟んだ後、米林さんが「観覧車乗ろう」と言い出す。
提案したのは彼女だけど、それに応じたのは俺で。
米林さんに合わせて俺は知らないフリをした。
米倉さんと目を合わせて一緒に頷く。
隣で楽しそうにしている姿に今まで感じたことのない痛みが胸の中を走った。
……ああ。そっか。これが愛なんだ。
それを手放そうとしているんだ俺は。
「米倉さん」
俺を見るその笑顔をこれから壊してしまうなんてキミはまだ知らない。