ハツコイぽっちゃり物語
距離
ゆっくり回る大きな輪のそのひとつの箱に私と葵生先輩が乗り込むとぐらりと揺らいだ。
ドキドキしているのはそのせいかもしれない、と思いつつ原因はやっぱ目の前に座っている人ただ一人。
何年ぶりだろと思いながら外の景色に目が奪われる。
夕陽が眩しくて目を細めた。
「わあ、綺麗……」
「だね。海までオレンジ」
「ほんとですね」
うっとりしてしまうくらい綺麗な色。夜はもうすぐそこで、夜景はさぞ綺麗なのだろうと想像する。
もうすぐ頂点に着く頃だろうなと高さから予測する。
本の読みすぎ脳は“もしかしたら”と考えてる。
「米倉さん」
その瞬間がきた――と先輩の顔を見た。
ドキドキして目が泳いでしまう。
心の準備なんかできてない。
目って瞑った方がいいのかな……?
優しいその眼差しが夕陽の光でさらに細められてなぜかその表情が哀しそうにみえた。
「距離をおこうと思うんだ」
「え?」
気の抜けた声が自分から出たなんて分からないくらいぽっと出た微かな声だった。
いまなんて……。
きょり?
きょりって、あの『距離』?
先輩はなんでそんな苦しそうな顔をしてるの?
「えっどうしたんですか。何ですか急に」
そう発した声は笑っていた。
だって何言っているのか分からないんだもん。
急に『距離を置こう』だなんて冗談、ですよね?
先輩の表情は変わらず優しい目をしていた。