ハツコイぽっちゃり物語
確かに、もしちーちゃん達が偽装の恋人を演じてさえいなかったら今の気持ちは全く無くて、ずっと先輩の傍にいて、恋ちゃんは“ただの幼馴染”のままの人生だった。
あの約束も思い出せないまま、大切な想いを捨てたまま、生きていくことになっていたのかもしれない。
そう思うと、ゾッとする。
大切なことに気付けないまま生きるって何かを失うのと同じでとても怖くて、悲しくて、悔しい。
そんな人生もったいないよね。
「ありがとう、ちーちゃん」
スカートの上に置かれた右手を握ると、少し俯いてた顔が私を見た。
大きく見開かれた瞳は次第に柔らかな弧を描く。
「なんか変な感じ」
「なんで?」
「だって、こんな事されて感謝されてるんだよ?やっぱ変じゃん」
「でもそうさせたのはちーちゃんのせいだもん。だからそのまま受け取りなさい」
困ったように声を上げたあと、2人して笑った。