ハツコイぽっちゃり物語

「久しぶり」と声を掛けてくるかと思いきや、なにも言葉を交わさず先輩は私に笑いかけて、ちょっと間をあけてから「上の自習室で待ってるね」と言った。


一人カウンターの方へ歩いて行く後ろ姿をぼんやり見つめる。


自習室……。
そこは私と先輩が付き合うことになった場所。


きっと先輩は気付いてる。
私が出した選択に。
だから、あの場所……。


胸に手をあてるとドキン、ドキン、と一定のリズムで動いてる。
ぎゅっと握り締めて、深呼吸した。


図書委員のお仕事は相変わらずで、貸し出しの対応や本棚の整理、ラベル貼りなど。

司書の松原さんとも久しぶりに顔を合わせ、みんなで「明けましておめでとうございます」と遅れた年明けの挨拶をして、いつものように談笑した。


外がオレンジ色に染まりだした頃。
「今日はもう閉めるよ〜」と松原さんが言った。

これから職員会議があるみたい。


あっという間すぎた時間に名残惜しさを覚える。
特に何もしてないけど。
人だって少ないし、ほとんど読書に励んでいただけ。


足早に松原さんを見送った後、私たちも帰り支度をする。


晴菜ちゃんは私と先輩が付き合っていることを知っているため、気を遣わせてしまったようで「お先に〜」と先に出て行ってしまった。


図書室にはもう私たちしかいない。

先輩と目が合う。

にこっと笑ってくれるのに私は笑えずに俯いた。


なんで。なんでそんなに優しいの?
なんで笑ってくれるの?

もう気付いてるはずなのに。

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