ハツコイぽっちゃり物語

「誰も居ないし、ここで話す?」


柔らかな声に首を振った。

こんなところで別れ話なんてしたくない。
ここに来る度に思い出してしまいそうだから。
先輩の表情を。言葉を。



「だよね。行こっか」


先輩も同じことを思っていたのか、それは冗談だというように笑う。

先輩の後ろをついて行きながら手に力が籠っていく。


もうすぐ。もうすぐ終わってしまう。
……ほら、もう自習室。


ガラッと開けた音に体が強ばった。
一歩進んでドアを閉めると、そこは私たちだけの世界。


なぜか吹奏楽部が練習している音が悲しく胸に響いて、喉の奥が熱くなって苦しくなった。



「泣かないで」


困ったように笑う先輩に言われて頬に手を当てる。
指先に触れた涙は冷たい。

そしてどこまでも優しいその眼差しに堪えてたものが全て溢れた。


言葉よりも先に、止めどなく溢れる涙が憎い。


なんで泣いてるの私。
先輩困ってるじゃん。
泣く前に言わないといけない事があるでしょ!
そっちが先でしょ!


自分に怒るけど、なかなか喋れずにいるのはこんな私を優しく撫でてくれる先輩がいるから。



「っぅ……ごめん、なさいっ……」


やっと出たのがこんな惨めな言葉で。


ごめんなさい。
まだ何も言ってないのに。
ごめんなさい。たくさん困らせて。


ポロポロ零していく私を先輩は何も言わずただただ落ち着くまで背中を摩ってくれていた。

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