ハツコイぽっちゃり物語
「はー帰りたい。寒いし、もう任意でよくない?」
「あはは。そんなこと言わないの。任意だとほとんど来ないと思うよ」
部活に入っている人以外は。……たぶん。
私みたいにお世話になった先輩がいない限り、ね。
「千桜、温めて〜」
「いいよー」
ぎゅっと手を握るとちーちゃんは『溶ける〜』と笑っていた。
突然、キーンと体育館中に響く音に顔をしかめるとマイクを叩いて音を確認する教頭先生の姿が目に入る。
《長らくお待たせ致しました。これより第82回卒業授与式を執り行います。卒業生入場――》
入場曲が流れると盛大な拍手の中、卒業生がゆっくり入ってきた。
中にはもう泣いている人がいて、つられてしまいそうになる。
《――3年5組、入場》
ドキッと胸が高鳴る。私は更に拍手に力を入れる。
先輩は前から2番目にいた。
真っ直ぐ前を見て、背筋がピンと張っている。
かっこいいと思うと同時に、以前、先輩が本を借りた時のことを思い出してそっと微笑む。
着席した先輩に心の中で『おめでとうございます』と言うと、次の組が入場してきた。