ハツコイぽっちゃり物語
「みんなもうそろそろ帰る時間だよ」
ふと聞こえた松原さんの声に手を止める。
時計を見るともうすぐ完全下校時間の15分前になっていた。
いつの間にか集中していたみたい。
テーブルに広げられたたくさんの栞は色とりどりだ。
晴菜ちゃんはやっぱりストーリー性のある栞で、葵生先輩はマスキングテープのみのシンプルな栞。
みんな個性あるなあ、と関心していると葵生先輩がひとつ栞を手に取った。
「みんな個性あるね。特に佐波さんは」
「えっ、私ですか」
「うん。米倉さんもそう思うでしょ」
聞いてくれたのに、隣で笑顔を向けるその人にただ頷くことしかできなかった。
まさか聞かれるとは思わなくて……。
まただ。
またちゃんと喋れなかった。
先輩もそろそろおかしな子だなとか思ってそう。
だって先輩とちゃんと話せない。
あの日の帰り道しかちゃんと話したことないくらいだもん。
そろそろ思ってる頃だよね……。