ハツコイぽっちゃり物語

「俺のこと探してる人がいるって友達から連絡もらったからさ。多分君なんだろうなって」


窓際に寄りかかってそう聞いくるけど、俺もなんとなく分かってはいたから別に驚きはしない。
ただ、この嫌な予感が的中しないことを祈りたい。



「単刀直入に言います。千桜に思わせぶりな事するのやめてください」



葵生晴は俺を真っ直ぐに見つめて、それから柔らかく笑った。


ピキっと何かが切れる音がした。
なんだその余裕の籠った表情は。
まさか……。


「思わせぶり?」と首を傾げる葵生晴の表情が柔らかくなる。誰を想っているのかなんとなく想像ついてしまった俺に、更なる追い討ちを言い放つ。



「そんなこと一度もしたことないよ。俺も米倉さんのこと好きだから」



っ……ほら。やっぱりな。そうだと思った。
素直にそう思ってしまった俺が最高にむかつく。


葵生晴は天井(くう)を見つめながら、千桜のことを面白そうに、だけど愛おしそうに話している。


聞きたくない。はやく帰りたい。でもなんでか足が動かない。


ただ楽しそうに千桜のことを話す目の前の人に握り拳を作りながら聞いているだけで精一杯だ。



「君も米倉さんのこと好、」

「――葵生先輩、と恋ちゃん……?」



続く言葉を遮るように後ろから物音がして、それから聞き慣れた声が俺と葵生晴を呼んだ。


もうその後のことはほとんど記憶にない。
ただ、千桜の泣き顔と、叩かれた頬の痛みだけは覚えてる……――。

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