【短】アイを焦がして、それから
───服部 まろん。
それが彼女の名前。
正しくは、芸名だ。
インディーズアイドルである「オンナノコ*ソルジャー」というグループのメンバー。
グループで一番の歌唱力を持ち、ティーン向けのファッション誌の専属モデルでもある。
ソロデビューの話がきているとか、いないとか。
僕はグループを推してるわけでもなく、服部まろんのファンでもない。これだけの情報を知っているのは、「オンナノコ*ソルジャー」がインディーズながら超有名だからだ。身近にファンが大勢いるし、何度もテレビ出演している。
これまで「オンナノコ*ソルジャー」は数々の著名人を排出してきた。売れる逸材を生み出すグループ、スーパースターの登竜門と謳われているくらいだ。
そんな、ものすごいアイドルグループの現センターが、今、目の前にいる。
鳥肌が立つどころじゃない。
高校に入学して約2ヶ月とちょっと。
入学時から「服部まろんが隣の女子校にいるらしい」とうわさされていたが、男子校だから誰かの妄想だろうと思い込んでいた。
まさか本当だったとは……。
初めてちゃんと“服部まろん”を見た。
こんなにかわいいなんて聞いてない。
「そんなにあたしのこと、気になる?」
「へ、」
彼女はちらりと僕の手元を一瞥した。
中古の一眼レフカメラ。
写真部の新入部員である僕には不釣り合いな代物。これから釣り合っていきたい相棒、のようなもの。
その大事な一枚目には、自分の髪を断つ少女の背中。
「撮りたいなら、撮ってもいいよ」
「……え」
「あたしのこと、撮ってよ」
左側のはちみつ色の長髪が、カメラのシャッターに添えた人差し指にいたずらに触れた。