【短】アイを焦がして、それから






───ジャキッ。


耳の奥であの切り裂く音がよみがえる。



水素水にマーブルチョコを溶かしたような空に、現像したばかりの写真を透かした。

右半分の髪を右手で鷲掴み、左手に持った銀のハサミで思い切りばっさり。はらりはらりと落ちた髪の束のピントが合っていないのがよけいにこの瞬間のリアリティーを増している。


小さな背中。髪の毛から垣間見える、うなじと、苦しそうな横顔。


あの苦味ごと独り占めできたことを嬉しく思ってしまっている僕は、俗に言う、


「変態……?」


「自覚したんだ?」

「ぅえっ!??」



背後から聞こえたソプラノにびくりとすれば、うしろには天使───じゃなくて、服部まろん、さん。



PM 16:00。

女子校に隣接する、校舎横の花壇のそば。


そこで毎週金曜日、僕と彼女は待ち合わせをする。そして僕が彼女を被写体にシャッターを切る。

彼女がレッスンに行ってしまうまでの、たった30分だけ。



今日で撮影会は三回目。

30分間だけでも二人きりなのは心臓に悪い。全然慣れない。この心音の熱には毎回戸惑わせられる。



「変態くん、今日はどこでどんなあたしを撮ってくれるの?」



意地悪そうな笑みで、甘ったるく囁いてくる。

天使のなりをした小悪魔。

僕よりひとつ年上だからよりそう感じる。


それも悪くないと即答できる僕は、本物の変態かもしれない。


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