【短】アイを焦がして、それから
眉上のぱっつん前髪。
うしろの髪は耳たぶの長さに綺麗に切りそろえられた。
ロングも似合ってたけど、ショートも似合う。
彼女にはなんでも似合ってしまう。
ああ、ほら。
花壇に植えられたつぼみの花も、乾いた肥料ですら、彼女を引き立てる。
膝を曲げてつぼみを撫でる彼女にカメラを構えた。
───カシャッ。
音につられ、彼女の視線がこちらに向けられた。どきりと心臓が跳ねる。
「甲斐田」
彼女が僕の名前を呼ぶ。
甲斐田 秀篤。
どこか堅苦しさのある名前も、彼女の美声にかかればほろほろと溶けていく。自分の名前を好きにならずにいられない。
「甲斐田はどうしてあのときここにいたの?」
彼女が僕なんかに興味を持ってる!?
自惚れだってわかってる。
でも。
目が合う以上のコトは、たぶん、まだ、ドキドキどころじゃ済まされない。
「ひ、被写体を、探してて……」
「ふーん」
「服部さんは、どうして」
「見てたでしょ? 髪を切ってたの」
「校舎横で、自分で、ですか……?」
「そう。だめ?」
うぐっ。
わざとらしく小首を傾げ、上目遣いで見てくる。
計算だってわかっててもドツボにはまってしまう。
かわいい。ずるい。
だめじゃない。
せめてもの抵抗に写真を撮った。
パチリと音を鳴らすと、彼女は口角を上げた。