【短】アイを焦がして、それから



「か、かわいい、です」

「……それだけ?」

「え?」

「あたしかわいい、かな?」



微笑んでいるのに、どこか暗い。


影のある表情に言葉をなくす。代わりにシャッターを切った。綺麗な横顔をライトがうっすら照らす。

肌が、白い。

光に照らされると消えてしまいそう。



「かわいいですよ」



声が震えた。伝えなくちゃいけないと思った。


たった数文字のこの言葉にどれだけの勇気を込めたのか、そんなことは彼女には伝わらなくていい。

言葉の意味だけが、伝わってほしい。


伝われ。



「“かわいい”は正義、ってよく言うじゃん?」



……伝わって、ない、気がする。

気がするんじゃなくて絶対に伝わってない。


返ってきた言葉が、僕の言葉へのものじゃなかった。明るいトーンで紡がれた、独白に似ている。



「あたし、“かわいい”は正義だって思うのはやめにしたの。もう二度と自分の“かわいい”に甘えない。甘えられないの、あたしは」



だから僕の言葉を受け取ってもらえなかった。



「どうして……」

「あたしね、大きな失敗をしたの。大好きな人を傷つけちゃった。だからあたしはもう失敗できないの。二度も失望させたくない」



顔にかかった髪を耳にかけ、頬を歪ませる。

不謹慎ながらその姿に釘付けになった。


かわいい。
だけどそれ以上に、かっこいい。


カメラを持ち上げ、レンズを覗いた。その憂いも覚悟も、レンズ越しでは鮮やかに写らない。それがたまらなく悔しい。



目の前の“かわいい”が正義でも悪でも、蜜でも毒でも、僕は間違いなくトリコになる。もう、なってしまっている。

彼女が“かわいい”を簡単に受け入れないなら、僕が伝え続ける。



そしたら───僕にだけは甘えてもいいのだと、頼ってもらえないだろうか。


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