【短】アイを焦がして、それから






高まる気温。じわりとまとわりつく熱。首筋ににじんだ汗。耳裏にピンポイントで日差しが当たってるんじゃないかと疑ってしまうほどの赤色。

ドク、ドク、ドク。速く脈を打つ。鼓膜の内側で心音がこだましては、赤色を濃くしていく。



「あっ、甲斐田。遅かったね」



振り向いた彼女が、都合よく、スローモーションで見えた。ふわりとなびくはちみつ色の細い髪とスカートの裾に、いちいち胸が高鳴る。

透明な雫が飛び散った。



「な、何をしてるんですか」

「水やり。お花さんが欲しそうにしてたから」



何だその理由。かわいいがすぎる。


近くの蛇口からホースを引っ張って、ホースの先をそっと花壇に向けた。咲き始めた花に雫が垂れる。


キラキラしてる。

何のフィルターもかけていないのに。


見惚れる。

惚れて、腫れて、心臓あたりから焦げついていく。



───ビシャァッ!


「!?」



ぼうっとしていたらホースがいきなりこちらに向いた。ホースの先端をくぼませ、水が勢いよく飛んでくる。あわてて身をよじり、カメラを死守した。


背中がびしょ濡れだ……。

カメラは……よかった、無事みたい。



「きゅ、急に何するんですかっ!」

「暑そうにしてたからつい」


ごめんね、なんて思ってもないことを甘く呟いて舌を出す。

いたずらっ子みたいな彼女に敵うわけがないじゃないか。


湿った背中もすぐに熱が帯びていく。
この熱からは逃れられない。

暑い。熱い。たぶん、彼女がそばにいるかぎり、ずっと。そうだったら、いい。


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