After the Rain
「好きだよ、志帆……」

「私も好き……」

愛を謳って、恋を飾って、僕が前に見かけた恋人のように幸せな関係を続けていこうと思っていた。でも、そうはならなかった。

「そのドラマ、私も好き」

ある日、僕の家に志帆が泊まった時、一緒にテレビを見ることになって志帆が言ったその何気ない一言が、僕の心に懐かしい思い出を再生させる。それは、もう忘れたはずの元カノの記憶だった。

『あたしもそのドラマ、好きだよ。気が合うね!』

元カノの笑顔と、隣に座っている志帆の微笑みが、重なって見えた。

元カノと志帆を重ねて見るなんて、志帆に対してとても失礼だ。でも、志帆と楽しくデートをしていても元カノのことばかり頭に浮かぶようになっていく。志帆の言葉に、行動に、元カノと一緒にいるような気持ちになってしまって、でもその時間が愛しいだなんて、苦しいだなんて、言えない。

でも、この気持ちに苦しんでいるのは僕だけじゃなかった。志帆だって元カレと僕を重ねていたんだ。
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