夜の薄暗い隅っこで
夜の薄暗い隅っこで
「またですか」
私が夜の中につま先を引っ付けて少しだけ覗いたら、君くんは赤い屋根の上でげんなりとしたふうに振り向いた。
黒髪色白で白シャツ、黒ズボン。
決まって屋根の上で座っている彼は、私の特別なお友だち。
彼とかじゃありません。私にそういうのは似つかわしくなく、彼もまた私にそう言う感情を持ち合わせてはいないので。
「町さん、またですか」
「やってる?」
「おでん家の屋台覗くサラリーマンの真似いらない」
ぴしゃりと言いのけてにへと笑う。
この日の夜は月がまんまるで、紺色は雲ひとつありません。
「町さん、辛くなっちゃったんですか?」
「君くん、私辛くなっちゃっただよ」
「なっちゃったですか」
「だよ」
ふむ、と膝を立てて座る君くんの名前が君くんと言うのは、彼に名前がないからです。はじめて彼を見たとき私はこの場所で出会ったのだけど、あなたが見えてるものがすべてですよ、なんて深いことを言うので、あれこれ考えた末に二人称の君、そしてくんが付きました。
そう、彼の名付け親は私であり、それは特別な友情の証です。