Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
Heidenröslein~野ばら
出逢い
はあ、とぼくはため息を着く。
一体、何度目だろう? と眉間にしわを寄せたくなったけれど、今のぼくは単なる“社長秘書”に過ぎないいち市民だ。
『何度、来ていただいても一緒ですよ!社長は首を縦に振りませんし、第一ボクが許しませんから』
大げさなほど両手を広げて、やれやれと首をすくめて見せた。
ベリーヒルズのショッピングモール。日本の文化を世界に発信する目的で作られた建物の屋上には、本格的な日本庭園がある。
盗聴防止には、密室よりもより広い空間……なるべくなら天井のない開放的な場所の方がいい。
人工物はいくらでも小細工できるが、空気は無理だから。
『……それは困りますな。こちらも子どものお使いではない。何の成果もなく戻り、“ハイそうですか”と、諦めていただけるとでも?』
一見普通の欧州ビジネスマンに見えるスーツ姿の彼だが、真の身分は今のぼくより遥かに上だ。部下に見える若者も、従者だろうがおそらく下級とはいえいち貴族かそれに準じる地位にあるだろう。
ぼくを蔑む目が、全てを現している。
“異国の何の身分もない輩に、なぜ頭を下げねばならないのだ?”ーーと。若いぶん、愚かなまでの実直さでこちらを見下していた。
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