Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
何だか泣きそうに見えたから、『じゃあ』とぼくは提案してみた。
『ぼくが弟になってあげるよ!』
『え……あなたが?』
『うん!』
コクコクと頷こうとして、ひざ枕されているのを思い出した。
ガキなりに気を使って、“どうすれば喜んでもらえるか”なんて考えた結果、バカらしいくらい単純な考えが浮かんで口に出しただけ。
だが、それは彼女もお気に召したのか、
『そうか……うん、それもいいかもしれないね』
なんて頷くから、だろう!と得意満面になったぼくだった。
『そう言えば、名前を聞いてなかったわね……私は、ミルコ・ファン・ファザーンよ』
『ボクは、カール・ファン・オーベンだよ!』
名前を聞いても、特になんとも思わなかった。
6歳にしては散々人間の醜い面を見てきたし、ある意味達観していて。その時からすでにぼくにとって、肩書きだの名前だのは意味のないも同然になっていたから。ミルコが女王というのにすぐに気付いたけど。だからといって態度を変えようなんて思いもしなかった。
『オーベン公爵のご子息ね……今は入学式典の最中ではなかったかしら?』
『ガキが多すぎて退屈だったんで』
ぼくが当然な答えを返すと、何がツボに入ったのか……ミルコ女王が唐突に吹き出した。
『あなただって子どもじゃない……可笑しい!』
たぶん、久びさに笑ったのだろう笑顔はぎこちなかったけど。朗らかなそれは、ぼくの胸を打って。
たぶん、この瞬間。ぼくは彼女に淡い思慕を抱きーー生まれて初めての恋をした。