Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
ぼくは近くに居なかったけど、その時の女王陛下の喜びようときたら……遠くからでも幸せを感じる程だった。
ただ、手放しでご懐妊を喜べないのが今の陛下の難しい立場を表している。
『残酷なようだが……今は、諦めていただいた方がいいかもしれない』
難しい顔でそう言ったのは、宮内庁トップのお父様。ご懐妊の事実はまだ周囲に口止めしていて、表沙汰にされていない段階だった。
侍女長のお母様や侍従見習いのぼく、あとは女官長やら……と、女王陛下のプライベートに係わり、尚且つ表の公務や政務をサポートする人が集まっていた。
『なぜですか?オーベン公。陛下のご懐妊は国の慶事であります。今の発言は不敬過ぎますぞ』
もう一人の宮内卿が渋面でお父様を嗜める。ぼくも同感だ。女王陛下の喜びっぷりを見たら、誰もが良かったと思うはず。きっと弟ぎみのゲオルグ王太子殿下もお喜びになるだろうに……何がいけない?
『……ご懐妊が知られれば、妨害が激しくなると予測されます。ご出産まで安全を確保できる保証は……正直できかねます。それに、御子が生まれれば御子も命の危険があるでしょう。
今は陛下の絶対的な安全を確保する作戦の最中です。ご懐妊となれば、それらが全て無効となり1から練り直さねばなりません。
王太后陛下や議会による陛下に関する予算案の否決が続く中、限られた予算で安全に万全を期すならば、今は時期でないのです』
つまるところ、お父様はあえて憎まれ役を買ってでも、女王陛下の厳しく難しい立場を鑑みて……今回は諦めた方が、女王陛下とこれから生まれるだろう女王陛下の御子の生存確率は上がる……と言って下さったんだ。