Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

『不躾ながらも、発言をお許しいただきたい』

次に発言を求めたのは御典医長。数十人からなる陛下付きの侍医のトップだ。

『結論を先に申し上げますと……女王陛下の御体は、とても妊娠の継続や出産という負担に耐えられる状態ではございません』

医療のプロの見立てに、場内がざわめき出した。ぼくはわがままを言って無理にこの場にいるから、あくまで壁と同化してひたすら黙っているしかないけど。歯がゆい思いで胸が一杯だ。

『陛下のご懐妊のめでたき慶事に驚きました。正直、陛下の御体はとても御子を授かれる状態でない……と思われたのでございます』
『だが、今回のご懐妊でそれは覆されたのでは?』

宮内庁の他の重鎮からの指摘に、御典医長は非を素直に認める。

『はい。ですから我々も喜ばしくありました……ですが、先ほど申し上げました通りに、女王陛下の御体では出産という命に関わる難事に耐えられるものではございません。今はまだ妊娠のごく初期ですから負担も軽いですが、妊娠の継続や出産を望めば……母子ともに命の危険がございます。わたくしとしましては……陛下の御体が耐えられる時期でのご懐妊が最も望ましい……と具申いたします』

つまり、御典医長は“今の陛下の体では妊娠に耐えられず、母子とも命の危険があるからあきらめた方がいい”と警告しているんだ。

『…………』

お父様も難しい顔で腕を組み、沈黙してしまった。それ以外の重鎮たちも、咳払いすら遠慮して妙な静けさが議場に落ちた。

けど、意外な侵入者が突然ドアを開けてこう叫んだ。

『……わたくしの子どもの運命を、勝手に決めないでください!わたくしは何があっても、どんな危険があってもこの子を産みます!!』

それは、息を乱した女王陛下ご本人だった。

< 101 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop