Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
(ーー相変わらず、腐った連中だ)
貴族の連中は結局、己の利にならないものでしか動かない。この輩も己の立場や身分を守るためだ。
民のため国のためという大義名分を挙げてはいるが、結局貴族主導の政治を手放したくないだけだろう。
『ーーハインツ卿、せっかく日本へお越しいただいたのです。良ければ東京の見どころをご案内致しましょうか?』
『いや……いえ、いいえ。生憎とそれほど時間はございませんので』
帽子を脱ごうともしない老紳士。お貴族様は、相変わらず平民と対等に話もできないらしい。
『そうですか……残念です。お時間があれば社長……レイ王子殿下にお会いできる機会(チャンス)もあったやもしれませんのに』
『!……それは』
シルバーブロンドのハインツ卿の、グレイの瞳が見開かれるが。もう時遅し、だ。
そして、ぼくは間近にいた部下に指示を出した。
『ハインツ卿はお帰りだそうだ。丁重に空港へお送りして差し上げなさい』
『ま、待ちなさい……オーベン公……!貴公は祖国が内乱に陥っても平気でいられるのか!?』
今さら? な戯れ言を言う口を、永久に閉じさせてやりたくなる。
あんたらだとて、ミルコ女王と本来なら王太子になる王子を見棄て見殺しにしたくせに。今度は助けてくれと叫ぶとは、滑稽すぎてヘドが出る。
『ーーハインツ卿、残念です。また今度ごゆっくり来日出来ればいいですね。国がまだあれば、ですが』
にっこり笑って、日本語でつけ加えてやった。
「それから、ボクは今、小椋(おぐら)って名前ですから。お間違えなきようお願いしますよ」